もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
プロローグ
どうしてですか、先生。

 私の疑問を呑み込むように、彼の口づけが落ちる。

「君の恋人は俺だ」

 磨き抜かれた刃物のような印象を与える冷淡な顔つき。薄い唇からこぼれ出た声は低く素っ気ないのに、蠱惑的に響く。

 普段は思わず目を逸らしてしまうくらい冷たい瞳の奥に、今は火が灯って見えた。

 どんな事態でも冷静に対処し、動揺や心の変化を絶対に見せない人だと聞いていたのに。

「知って、います」

 わかっている、ではなく知っていると答える。

 私たちの関係は偽装恋愛。他人の目を欺くための偽りの関係だ。

 それなのになぜ、この人は私にキスをするんだろう?

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