もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 温かな雰囲気と放っておけない空気は以前と変わらなかったが、内から湧き出るような輝きがあったと思う。

 病院で働いているとときどきそういう人に出会う。あれは生命力に溢れた人間特有の輝きだ。

 少したくましくなったようにも見えたのは、息子のおかげだろうか。

 彼女がささやくように俺の名を呼んだときの声を思い出し、心臓が不自然に跳ねる。

「……すみません、ちょっと出てきます」

 まだなにか話したい様子の看護師を置いてスタッフルームを出る。

 今、廊下を歩き回ればまた柚子に会うかもしれないと考えてから、俺は自分が彼女に会いたいのか、それとも会いたくないのかがわからなくなった。

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