もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 横には簡易の喫煙所が用意されているが、ほとんど使った形跡はない。

 ……彼女は本当に、織部柚子だった。

 そして彼女が温かな眼差しを向けていたのは、俺がいない四年の間に生まれたかわいらしい息子だ。

 あの子供を見ると自分でもどうしようもできないくらい、狂おしい感情が芽生える。

 柚子に似ていてとてもかわいい子だったのに、あの子供の存在が柚子に触れた男を嫌でも想起させた。

 四年前、柚子はベッドの上でぎこちなく俺に甘え、震えるほど艶めかしい声で『蒼史さん』と名を呼んだ。

 ほかの男にもあんな姿を見せたのだろうか?

< 118 / 281 >

この作品をシェア

pagetop