もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 その男にあの細い腕を絡め、抱きしめて引き寄せ──彼女からキスを贈ったのだろうか?

 額に手をあて、自分にあると思っていなかったどす黒い感情を吐き出すように深呼吸する。

 俺にこんな感情を抱く資格はない。

 彼女との関係は四年前に終わったのだ。ほかならぬ俺が自分の手で終わらせた。

 それなのに俺はまた同じ過ちを犯そうとしている。

 ……契約結婚なんて、彼女に申し出るべきではなかった。

 これではなんのために四年前、柚子を切り捨てて今の人生を選んだのかわからない。

「……どうかしている」

 感情と一緒に吐き出した言葉は、想像以上に苦々しい響きをはらんでいた。

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