もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 蒼史さんは私を振り返らず、背を向けたまま手を伸ばしてきた。

 さまよった手が私の頭を捉え、優史にするように軽くなでる。

「もう少し気を遣うべきだったと後悔しているところだ」

「充分優しくしていただきました」

 私が至らないばかりに彼に嫌な思いをさせたのが悲しくて、自分が感じたものを口にする。

「すごく素敵な夜でした。あの日も、今も。全然怖くなかったし、まだ蒼史さんに抱きしめられているみたいでどきどきします」

 事実、私の心臓は彼の熱の余韻が消えなくて騒がしいままだ。

 蒼史さんはしばらくなにも言わずに私の髪をなで、床に落ちたシャツを拾って立ち上がった。

< 151 / 281 >

この作品をシェア

pagetop