もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 再び唇を塞いだぬくもりに溺れそうになりながら、ぼんやりと考える。

 キスより前にこの状況を気にするべきかもしれない。

 ベッドサイドランプだけが照らす部屋には、ダブルサイズのベッドと小さなテーブル、椅子、そしてテレビと冷蔵庫がある。独り暮らしでしか使わないようなサイズの冷蔵庫にはペットボトルの水が入っているだけ。

 ここは彼の部屋でも、私の部屋でもない。

 偽物の恋人が訪れるはずのないホテルの一室だ。

 そんな場所で私はシーツの海に身を委ね、覆いかぶさる彼を見つめている。

 どうして、と何度も思いながら。

「だったら俺だけを見ていろ」

 だからどうして──。

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