もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました

 せめてその動揺を表に出すまいと、滅多に作らない笑みを口もとに作った。



 最近テレビでよく聞く流行りのポップスが手術室に響く。

 場違いなくらい明るい曲だが、手術中に音楽を流すのはよくある話だ。

 俺はどうせ集中していて聴いていないから、とくに曲を指定したことがない。

「よろしくお願いします」

 短く告げ、ドレープに覆われた柚子を見つめる。

「メス」

「はい」

 彼女のきれいな身体に傷をつけたくない、と思ったのは一瞬だけだった。

「コッヘル」

「はい」

 切り開いた肌を固定し、止血に入る。

 手術の経験なら、同世代の医者よりも積んでいる自覚があった。

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