もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 ふと、手の微かな震えに気がついた。

 こんなのはおかしい、今までの俺ではないと思うのに、どんどん頭が真っ白になっていく。

 今までだって俺は患者を失いたくないと全力を尽くしてきた。

 ほんのわずかでも生きる可能性があるなら、絶対にあきらめず前向きに患者と向き合ってきたのに今は違う。

 ……怖い。

 もしも俺がミスをしたら、永遠に柚子を失ってしまう。

 そして優史から大切な母親を奪ってしまう。

 そうか、俺は初めて執刀を怖いと思っているのか。

 命は平等に大切で、だからこそいつも全力で向き合うのだと信じていたが、俺にとって柚子は他者とは比べられないほどの存在だったらしい。

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