もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 嫌な汗が額を伝うと、看護師がそっと拭ってくれた。

 俺はこの半年、何度ふたりの笑顔を見ただろう。

 どれだけ柚子と優史に向き合ったかと言われると、答えられる自信がない。

 だけど不思議と、寄り添うふたりの穏やかな表情は簡単に想像できた。

 再び深呼吸して、また止まっていた手を動かす。

 初めて柚子を意識した瞬間のことが脳裏によみがえった。

 医者として当然の仕事をしているだけの俺に、お礼をしたいからと弁当作りを申し出たときのあの真面目な顔。

 下心抜きで本当に力になりたいと思っているのは、その顔を見ればわかった。

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