もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 温かい家庭を知らない俺が、彼女を幸せにできるのか。

 幸せにできないばかりか、知らないところで傷つけてしまったらどうすればいい。

 だから、柚子の幸せを願って手を放したのだ。

 結局、自分に言い訳をしてまた彼女を求めた自分にはあきれるほかない。

 繰り返し過ちを犯したせいで、柚子に取り返しのつかない傷をつけたのかもしれない。

「輸血、追加してください」

 これ以上柚子を苦しめないために、彼女の命を繋ぎ留めようとする。

 俺が今すべきは過去を悔やむことではなく、彼女を助けること。

 俺はよい夫でもよい父親でもなかった分、よい医者ではあったはずだ。

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