もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 乱暴に突き飛ばされ、数歩下がる。

 大和の大声によって優史がぐずり始めた。

 それで頭が冷えたのか、大和が優史を軽くゆすりながら俺を睨む。

「あんたを許せない気持ちはあるけど、姉ちゃんを助けられるのは先生だけだ。……姉ちゃんが好きなのも、あんただけなんだよ」

 大和の言葉は俺の胸に深々と突き刺さった。

 今まで自分の気持ちにばかりかまけて、柚子の思いを考えたことがあっただろうか。

 なぜ、彼女は二度も偽りの関係を受け入れてくれたのだろう。

 たしかに彼女はお人よしだが、いつでも別れられる恋人関係と籍が変わる婚姻関係ではわけが違う。

 俺は柚子の気持ちを知りたくなかったのだ。
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