もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 今の質問だって事故を経て目覚めたばかりの妻にかける言葉ではないだろう。

「君は昨日、七時間近くにわたる手術を受けた。元気そうに感じても本調子とは言いがたい。なにかあればすぐナースコールで呼ぶように」

「はい、わかりました。先生」

 あまりにも彼が医師として接してくるものだから、私も自然と先生と呼んでしまった。

 手もとの紙になにか書いていた蒼史さんが手を止め、私を見る。

「……たしかに今のやり取りではそう呼ばれても仕方がないな」

 蒼史さんは紙を横の簡易テーブルに置くと、少し悩んだ様子を見せてから口を開いた。

「君が生きていてくれてよかった」

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