もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 子供相手にこの人がこんな大人げない発言をするとは思わず、口を挟む。

 蒼史さんは私に目を向けると、唇の端を微かに上げて笑った。

「もう我慢しないと決めたからな」

「だからって……」

「パパ、ちゅ?」

 優史が自分の頬をつんつんと指でつついて、蒼史さんからのキスを促す。

「急かすな」

 言い方はともかく、蒼史さんは気恥ずかしそうに優史に顔を寄せた。

 そして優史の頬に軽く唇を触れさせてから感慨深そうに息子を見つめる。

「今、父親らしいことをした気がする」

「よかったですね」

 心なしかうれしそうに見えて、私まで心が弾んだ。

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