もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 だって私たちは偽装恋愛の関係なのだから、こんな甘く熱のこもったキスを続けるべきじゃないのだ。

 わかっているのに、私の腕は勝手に彼の背中を抱きしめていた。

「いつも先生だけ見てます」

 あなたの瞳に映る私はいつだって偽物の恋人でしかなかったけれど。

 ……私は、違ったんです。

「……あっ」

 多くの人を救ってきた手が私の顎を掴んだ。

 日頃は人も物も繊細に扱っているだろうに、やけに荒っぽい。乱暴だといってもいい。

 それが彼の余裕のなさを示しているようで、無意識に息を呑んだ。

「その割にはすぐ目を逸らすな」

 見つめているつもりが、無意識に視線をずらしていたのだろうか。
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