もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 微かな衣擦れの音に紛れた荒い吐息は蒼史さんのもの? それとも私のもの?

 じゃあ、服をかき分けてお腹に触れた熱い手は?

 私のじゃない。だって私の手は蒼史さんの背に回したままだから。

 だとすると私の肌をなで、ぬくもりを与えるこの手は蒼史さんのものということになる。

 だけど彼がこんなに情熱的に触れてくる理由はないはずだ。

「君が欲しい」

 ──私たち、偽装恋愛の関係じゃなかったんですか?

 喉まで出かかった言葉はやっぱり呑み込んでしまった。

 代わりに蒼史さんを抱きしめたまま未知の悦びに浸り、自分のものとは思えない声を漏らす。

 これが夢でもよかった。

 ……彼に愛されたかったから。

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