さよならの続き
少しして陽太は真剣な面持ちで切り出した。

「なあ有梨、俺、やっぱりお前がいないと駄目だ。だからより戻さないか?」

『修復』と『別れ』、陽太がどちらの選択をするかは今の今までわからずにいた。
和やかな雰囲気を作ることで、いがみ合わずに別れを切り出そうとしているのかもしれないとも思っていた。
弱気な様子に胸が痛むけど、どちらにしても私の気持ちは別れに向かっている。
信頼を裏切って不安にさせて、結婚もできない女と付き合い続けても、陽太にメリットはない。

「…ごめんなさい。私はやっぱり結婚を意識できないし、もう――」
「結婚なんて考えなくていいよ」

強い口調で遮られ、言葉が出て来なくなった。
迷子の子どもみたいな悲しげな顔が私を見つめている。

「もっと有梨のこと信じるし、大事にする。だからそばにいてほしい」
「…っ私、こんな半端な気持ちで戻れないよ」
「半端だっていい。まだ俺に対して気持ちが残ってるなら」

懇願するような瞳が揺れ、それが私の心を弱くする。
胸の痛みから逃れたくて視線を落とした膝に、陽太の無骨な手が乗せられた。

「有梨がそばにいてくれれば、それだけでいいんだ…」

掠れる声が痛々しく響く。
こんなに弱っている陽太は初めて見た。
彼は精神的にとても強い人なのだとずっと思っていた。
仕事をしていてもそう見えたし、プライベートでもそうだった。
彼を今弱らせているのは、ほかならぬ私だ。

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