さよならの続き
その日の夜、残業帰りの陽太から『今から会いたい』と連絡がきた。
もう22時を回っている。こんな遅い時間に会いたいだなんて珍しい。
正直もう寝ようかと思っていたけど、断ったらまた陽太を不安にさせると思ってそれに応じた。

「お疲れ様」
「ああ、お疲れ様」

ドアを開けて出迎えると、陽太は疲れを逃すように息を吐きながら部屋に入ってくる。

「夕食は食べたの?」
「うん、コンビニでつまみながら帰ってきた」
「そう」

ソファに腰かけた陽太が私の腕を引き、倒れ込むようにその胸に抱きとめられた。
背中に回った腕が、私を閉じ込めて離さない。

「陽太?」
「…なんで今日休憩室に一緒にいたの?」
「え?一緒にいたわけじゃないよ。たまたま会っただけで――」
「ホントに?いつもあそこで会ってるんじゃないの?」

顔は見えないけど、明らかに声が不機嫌だ。

…そうか。このことを聞きにこんな時間にわざわざうちに寄ったのか。

『もっと有梨のことを信じる』

よりを戻した時に陽太はそう言ったけど、陽太の中に航平の影が消えないのは今も変わらない。

「課長と話すのは連休明け初めてだよ。よくないよ、陽太。同じ部の管理職相手にあんなこと言うなんて」

私の厳しいトーンに動揺したのか、陽太の息遣いが少し変わったのを感じた。
航平と話して安心していた自分。
『もう話しかけない』と言われてショックを受けた自分。
そういうものが陽太には伝わって不安にさせているのだとしても、それは私の気持ちの問題であって航平に全く非はない。
航平にしてみれば理不尽に恋人同士の喧嘩のとばっちりを受けているようなものだ。

< 113 / 170 >

この作品をシェア

pagetop