さよならの続き
確かにあの背格好と歩き方は航平で間違いない。
その隣には、栗色の髪にパステルブルーのワンピースを着た綺麗な女性が歩いている。
遠目だけど、ふたりが目を合わせて笑い合っているのがわかる。

そういえば、私は航平に彼女がいるかどうかを尋ねたことはない。
雨の日に泊まらせてもらったときに恋人がいる気配はなかったけど、あれから1か月以上経っているのだから、今もいないなんて保証はない。
航平は顔立ちも整っているし、やさしくて穏やかだ。仕事もできる。
あの歳で独り身であることのほうがおかしいくらいなのだ。
蝕まれるように胸がじわじわと痛んでいく。

「有梨」

渚の声で我に返った。
じっと私を見つめている渚に、慌てて笑って返す。

「彼女かな。かっこいいんだもん。そりゃモテるよね」
「そんなに動揺してて、まだ過去だなんて言えるの?」
「動揺なんてしてないよ」
「してるじゃん」
「してないってば…っ」

つい強い口調になって、口を噤んだ。
渚は表情一つ変えずに私を見ている。

「自分の気持ちに嘘ついてたって、いいことなんかひとつもないんだよ。有梨自身のためにも、金井くんのためにも」

嘘なんかついていない、と言いたいのに、喉に言葉が詰まって出て来ない。
渚はまたタルトをフォークに乗せて食べ始める。
ちらっと窓の外を見たけど、もう彼らの姿は見えなくなっていた。

私には関係ない。…そう思いたいのに。

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