さよならの続き
「西嶋は大学時代からよくうちに遊びに来ててね、妹とも面識があるんだ。俺と3人で食事をする予定になってて、西嶋と妹は途中でばったり会って一緒に来たみたい」

うまく話についていけず、少しぽかんとしてしまった。

「…え、でも仲よさそうだったし、ふたりは恋人同士なんじゃ…」
「妹はもう結婚してて子どももいるよ。旦那さんとも円満だし。ただ、ブラコンっぽいところがあるからね、西嶋が東京に帰って来て喜んでるんだよ」

長いため息が漏れて、胸につっかえていた苦しさが消えていく。

「渚は俺の妹に何度も会ってるんだけど、あいつ、知らないふりして星野さんを試すようなこと言ったんだね。あとで注意しておかなきゃ――」

吉岡さんが言葉を止め、慌ててポケットを探る。
目元にそっとティッシュが押し付けられ、大丈夫?と心配そうな声が聞こえた。
だけど、私にはもう吉岡さんの輪郭すら見えない。

「渚のこと、許してやって。まさか泣かせるとは思わなかったと思うから」

吉岡さんがポンポンと私の肩を叩く。

「星野さんの気持ちが今どこにあるのか、考えるきっかけになるといいね」

吉岡さんは穏やかに言って去って行った。

きっかけも何もない。
もう見て見ぬふりをできない。
今この鮮明な胸の痛みがすべてだ。

『有梨がそばにいてくれれば、それだけでいいんだ』

そんなわけない。
陽太が望むものはそれだけじゃなかったはずだ。
そんなこと、最初からわかっていたのに。

『自分の気持ちに嘘ついてたって、いいことなんかひとつもないんだよ。有梨自身のためにも、金井くんのためにも』

陽太の不安は絶対に取り払えない。
だって彼は気づいている。
私と同じように見て見ぬふりをしているだけだ。

私は航平への気持ちを、過去にはできない。

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