さよならの続き
「俺、最初からわかってたんだ」

思わず顔を上げると、陽太は首を傾けて私を見ていた。

「覚えてるか?異動があった日、有梨が初めて自分から『抱いて』って言ったの。あの時は、俺と離れて寂しいんだって思ったけど、安田から西嶋さんのことを聞いて思ったんだ。有梨は元彼が急に帰ってきて気持ちが不安定になってたんだって。違う?」

目の前で何かが弾けた。
陽太の言う通りだ。私は陽太にひどいことをした。
私が自覚するよりも前から、陽太は気づいていたんだ。

「ごめん、陽太。私…っ」
「いや、もういいんだ。今さらな話だし。それに俺も有梨に謝らなきゃいけない」

陽太は俯いて小さく息を吐く。その表情は見えない。

「有梨に乱暴なことしたあの時、本当に子どもができてたらいいのにって思ってた。ピルなんて飲まなきゃいいのにって。そしたら有梨は俺のそばにいてくれるって。言葉ではいくらでも謝れたよ。申し訳ないふりだってできた。でも心の中ではそんな汚いことを考えてたんだ。あの時点でもう、俺は有梨を大事にできなくなってたし、元には戻れなかったと思う。…それでも繋ぎとめたかった。自分がどんどん汚くなっていくのも、有梨を苦しめるだけなのもわかってたのに」

顔を上げて小さく微笑んだ陽太は、今にも泣きそうな顔をしていた。

「解放してあげられなくてごめん」

かぶりを振ると同時に涙が流れ落ちた。
ずっと陽太を苦しめていた。
裏切って、傷つけてばかりだった。

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