さよならの続き
吉岡さんが言ったことを反芻しながらぼんやりと駅まで歩き、電車に乗り込む。

『違うっ俺は…っ』

『…有梨、俺……』

航平が何かを隠しているんじゃないかと思う場面は、今まで何度かあった。

『西嶋も苦しい思いをしてるから、俺もう見てられなくてさ』

吉岡さんが切なげな顔をしてあんなふうに言うほどの何かを、航平は抱えている。
それは私の苦しみよりもずっと大きなものなんじゃないだろうか。
聞かない選択肢はない。
どんな内容だとしても、私はそれを知りたい。

最寄り駅で降りると、私の足は真っ直ぐに航平のアパートへと向かっていた。
駐車場にはすでに航平の車が停まっている。
迷わずインターホンを押すと、少ししてドアが開き、心配そうな表情の航平が顔を覗かせた。

「どうした?何かあったのか?」

そうだ。このひとはこんなふうにいつも私の心配をするくせに、自分のことは何ひとつ話してくれたことがない。
曖昧に誤魔化されて終わるのは嫌だと思い、彼の横をすり抜けて勝手に玄関へ入り、リビングの固いフローリングに座った。
ただ事ではないと思ったのか、航平は私の向かいに座った。

「何があったんだ?」
「…何かあるのは、あなたのほうでしょう?」

航平が息をのむのがわかった。

「何を隠してるの」
「…吉岡が何か言ったのか」
「吉岡さんからは何も聞いてません。ただ知る権利があると言われただけです。その覚悟があるなら、と」

沈黙が降りる。
航平はあぐらをかいて視線を落としたままだ。

「…教えてください。何を隠してるの」

さっきよりも鋭い声でもう一度問うと、降参したように息を吐いて静かに話し始めた。


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