さよならの続き
診断がおりてから半年後の異動。それは自分で願い出たものだった。
どこでもいい。遠くへ行けば、有梨と別れる理由になる。
病気のことは言わず一方的に別れを告げることにした。
そのほうが有梨にも未練が残らない。恨まれたっていい。
俺のことなんか早く忘れて、ほかの男と幸せになってほしい。
そう願っていた。

本社に戻って昇進することが決まったのは、有梨を忘れたくて名古屋でがむしゃらに働いた実績を評価された結果だった。
もちろん、同じ部署になることなどないと思っていた。
専門職のMRと違って、事務職ならどこの課に飛ばされてもおかしくはない。
なのに、神様は残酷だった。
すぐに見つけてしまった。
昔より髪が長くなって、綺麗になった有梨の姿を。

『会いたかったんだ』

3年も離れていたのに、自分の想いを口にせざるを得ないほど、俺は有梨のことを忘れられなかったのだと痛感する。
有梨は今幸せなんだ。
もう3年前とは違う。ただの上司と部下なんだ。
わかっているのに、偽りと矛盾の気持ちを抱え、俺はつい距離感を忘れてしまう。
彼女の幸せに水を差すようなことをしてはいけないのに。

そうやって自分の立ち位置も定まらないまま病院に定期検査に行ったら、数値は悪化していた。
これはきっと、有梨を振り回し、有梨の恋人を不安にさせた戒めだ。
いい加減覚悟を決めなければならない。
俺は死ぬまで独りでいる。
有梨にはやさしい恋人と幸せな未来を築いてほしい。
そう思っていたんだ…

< 136 / 170 >

この作品をシェア

pagetop