さよならの続き
「ちょっとでもいいから食べな」
「…うん」

お昼は渚が社食に誘ってくれた。
私が何も食べないことを予想していたんだろう。
おにぎりやら菓子パンやらが入ったコンビニの袋を持ってきてくれた。
渚がこのタイミングでこうして誘ってくれたということは、吉岡さんから事情を聞いているということだ。
そして、吉岡さんは私が覚悟を決めて航平から全て聞いたこともわかっているんだろう。

私に『食べな』なんて言うくせに、渚は自分用に買ってきたおにぎりに手をつけることもなく、曇った顔をしている。

「渚はいつこのことを知ったの?」
「…私が知ったのも昨日だよ。飲み会から帰ってきたてっちゃんが急に泣き出して…その時初めて聞いた」
「吉岡さんが…」

吉岡さんが泣くなんて全く想像がつかない。
やっぱり彼も、航平の想いを汲み取ってずっと苦しんでいたのだ。

「どうして辞める必要があるの?そんなに身体の具合が悪いの?」
「…今すぐ命に関わるようなものじゃないって聞いてる。別の場所でまた仕事はするんだと思うけど、てっちゃんももう居場所は教えてもらえないって言ってた」

仕事が続けられる状態なら、こんなタイミングで辞める理由はひとつしか思い当たらない。

「…私の幸せを邪魔したくないから、辞めるってこと?」

渚は視線を落とし、静かにうなづく。

「…多分ね」

『君に幸せでいてほしい。俺はただ、そう願ってるだけだよ』

…馬鹿みたい。 
私の幸せを願うくせに、自分の幸せは何一つ考えないで、勝手に孤独を背負って仕事をやめるなんて。

「…そんなの私、幸せになれない」
「有梨…」

膝の上で握った拳に、爪が食い込む。
涙が出そうになって、歯を食いしばった。

そんなやさしさは要らない。
彼を放っておけない。
ひとりになんかさせない。

どれだけ考えても、辿り着く答えはひとつだ。
真実を知った今も、私の想いは変わらずここにある。

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