さよならの続き
いつの間にか少し眠ってしまったらしい。
瞼を開けば、すぐ隣に寝息を立てる航平の姿が映る。
熱さと気怠さが抜けない身体が、まだ幸福感で私を満たしている。
私が起きた気配に気づいたようで、彼がとろんと目を開けてやさしく微笑む。
胸に顔を埋めて頬ずりすると、規則的な心音が振動で伝わってきた。
ここではたと気づく。

「ねえ、航平」
「ん?」
「今さらなんだけどね」
「うん」
「こういうの、心臓によくなかった…?」

恐る恐る尋ねると、きょとんとした航平がふっと吹き出して笑い出す。

「そんなの考えてなかったな」

やさしい腕が私を抱きしめ、その身体が楽し気にくすくすと揺れる。

「有梨には迷惑だろうけど、抱き合って死ねるなら本望だよ」

幸せだと思った。
私もこのまま抱き合って死ねるなら本望だと思うくらいに。

しばらく私の髪をなでていた航平が、ゆっくりと身体を離して時計に目をやる。

「明日も仕事だし、送っていくよ」

急に現実に戻った気持ちになる。
航平の腕をぎゅっと掴んだ私に、彼は額をこつんとくっつけた。

「…また明日会えるから」
「…うん」

わかってはいるけど、この温もりを離すのが惜しい。
もっとくっついていたい。

時間なんて止まってしまえばいいのに。

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