さよならの続き
車ではほんの5分の距離だ。
たいした会話もできないまま、あっという間に私のマンションに着いてしまう。
もっと遠ければよかったのに。今日に限ってはそう思う。

「また明日」
「うん、また明日」
「雨降ってるから見送らなくていいよ。早く部屋に帰りな」
「うん」

名残惜しいけど、微笑み合って車を降りた。
涙のようだった大粒の雨は、ミストのような細かな雨に変わっている。

足早にマンションのエントランスへ向かう途中。

「…有梨!」

バタンと音がして、車から降りた航平が駆けてきた。

「航平?どうした――」

言いかけた私を、航平は抱きしめる。

「ごめん」
「…なんで謝るの?」

航平はしばらく黙り込んだ。
静かな雨が私たちを濡らしていく。
何が何だかわからず、無意識に航平のシャツの背を掴んだ。

「愛してる」
「…航平…?」

その腕が、不意に力強さを増した。

「……愛してた」
「え?」

航平はゆっくり身体を離すと微笑んで、じゃあな、とすぐに車に戻って行った。

今の、何…?
『愛してる』は聞こえたけど、そのあとの言葉は呟くような声で、うまく聞こえなかった。

『愛してた』

そう聞こえた気がしたけど、気のせいだろうか。
立ち尽くしていたら、車はすぐに走り去って見えなくなった。


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