さよならの続き
「ここに戻って来て、恋人がいるって聞いた時、本当に安心したんだ。彼女は泣き虫だから、ひとりで泣いてるんじゃないかってずっと心配してたから」
「泣き虫…?」

……ああ、駄目だ。敵わない。
有梨が俺の前で泣いたのは、俺が乱暴な行為をしたあの日と、別れた日だけだ。
1年付き合っていたのに、泣き虫なイメージなんて全くない。
俺には最初から無理だったのだ。

有梨と付き合う前、何年恋人がいないのかと何気なく聞いた時。
『丸2年かな』と笑みを浮かべたその顔はとてもつらそうで、まだその人を忘れられないのだと思った。
玉砕覚悟で告白した時、嬉しそうに応えてくれた彼女を見て、俺は彼女を幸せにできると思った。

有梨が俺のことを大事に想ってくれているのはちゃんと伝わっていた。
通じ合っていると実感していた。
だけど、有梨は時々俺の知らない顔をする。
どこか遠くを見つめて、捕まえていないと今にも消えそうな儚い顔をする。
桜の話をした時もそうだった。
そういう時、俺の頭にはいつも『元彼』がよぎっていた。
もう二度と会うことがないとしても、俺はその人を越えることはできないのだと。
心のどこかでいつもその存在を恐れていた。

< 152 / 170 >

この作品をシェア

pagetop