さよならの続き
頭に温もりが触れる。
『有梨…』
それは髪の毛をゆっくりと一撫でして、すぐに消えた。
意識がはっきりとした状態で目が覚めた。
カーテンはまだ閉まっているけど、さっきと日の入り方が違う。
あれから何時間経ったんだろう。
寝返りを打つと隣にはまた航平がいて、今度はこっちを向いて眠っていた。
なぜかさっきのような驚きはない。
ここにいるのが当たり前のような気さえする。
あどけない寝顔。睫毛が呼吸に合わせて小さく揺れる。
そういえばシャワーをしてくると言っていたけど、髪の毛がいくつも束になっているから、あまり乾かさないで寝たんだろう。
毛束の間にきりっとした眉が見える。
昔よく注意したな。
「乾かさないで寝ると風邪引くよ」
パチッと航平の目が開いて、私の手首を掴んだ。
そこで初めて、私は自分が思ったことを口にしていたことに気づいた。
数瞬、息をするのも忘れて固まっていたのは、私だけじゃなく彼も同じだった。
彼は息を吐いて私の手首を離し、右手の甲を目の上に乗せ、ごめん、と呟いた。
「ごめん。ちょっと昔の夢を見てたみたいだ」
彼は起き上がり、何事もなかったみたいに明るく笑う。
「もう平気か?顔色もいい。家まで送るよ」
夢じゃない。私は確かに声に出していた。
航平にそれを気づかれなかったことにホッとした。