さよならの続き
翌日、エントランスの隅で陽太の車が到着するのを待った。
まだ11時前だけど、黒い雲がかかっていて空は暗い。
昨日よりもずっと気温が低く、頬をさす風が冷たい。
隅の小さな花壇に咲く彩り豊かなチューリップも、心許なく寒さに震えている。
きっと昨日は、もっと元気に花開いていただろうに。

ほどなくして見慣れた車が駐車場に入ってきて、私の前で停まった。
ドアを開けると、いつものホワイトムスクと笑顔が迎えてくれた。

「おはよう」
「おはよ。お酒はもう残ってない?」
「うん。昨日は丸一日死んでたけどね」

ギアをドライブに入れた横顔が笑う。
なぜかホッとして肩の力が抜けた。
私の恋人は陽太で、航平はただの上司だ。
昨日は気まぐれに起きた出来事でしかない。
たとえば昨日が今日みたいに暗い雲に覆われていたら、航平だってあんなふうに誘うことはなかっただろう。
浮気だとか気の迷いだとか、そういうんじゃない。
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