さよならの続き
「星野さん、もうやめよう」
聞き慣れた声で我に返った。
見上げれば、穏やかに口元を微笑ませる航平がいた。
「課長、なんで」
きつねにつままれた気分だ。
だって、ここにはさっきまで私しかいなかったはずなのに。
「ごめん。俺、自分の席で寝ちゃってたみたいだ。君が忙しい時に申し訳ない」
うまく頭が回っていないのかもしれない。
どうして航平がいるのか、どうして謝る必要があるのか、さっぱりわからない。
「ずっといらしたんですか?」
「ああ。パソコンの影になって見えなかったか」
「なんで」
「俺は星野さんの仕事、やり方がわからなくて何もしてやれないから、せめて帰りは送ってやろうと思って」
それだけのために、こんな時間まで…?
少しぽかんとしてしまった私は、ハッとしてパソコンに向き直る。
「私はまだ帰れないんです。課長はもう帰ってください」
「そんなことさせられない。無理をすれば体調崩すぞ」
「大丈夫ですから」
「仕事より身体が最優先だ。頑張ればいいってものじゃない」
航平の強い口調で会話が途切れた。
眉間にしわを寄せ、端正な目元が歪む。
決して怒っているようには見えない。むしろ悲しそうに見える。