さよならの続き
狭い道をいくつか折れると大通りに出る。
駅から続くこの通りにはオフィスビルが立ち並んでいて、高い建物を見上げれば明るい光が漏れている窓がたくさんある。
まだ仕事をしている人もたくさんいるだろう。
19時前には家に着いてダラダラし、挙句寝ていた自分が申し訳ないくらいだ。

会話が途切れて窓の外をぼんやりと眺めていたら、ビルの向こう側にオレンジの光が浮かび上がってきた。
多分、数百メートル続いている。
それがなんなのかはすぐにわかった。

『さよなら、元気で』

目を逸らしてももう遅い。
脳が勝手に記憶を再生して、胸の奥が疼く。
信号待ちで停まっていた陽太は私の様子に気づいたようで、少し身を乗り出して助手席の窓の外を見た。

「ああ、桜のライトアップか。どっかの大学の並木道だな。明日土曜日だから混むだろうな」

信号が変わり、また車は走り出す。
とっくにオレンジの光は通り過ぎているはずだ。
だけど私はもう窓の外を見ることはなく、ぼんやりとナビを眺めていた。

「やっぱり桜は嫌?」
「うん、あんまり好きじゃない」
「そっか。一緒にお花見行けたらよかったのに」
「あ、全然いいんだよ。お花見しに行く?」
「いや、別にいいよ。見に行ったってどうせ飲むほう専門だし」

陽太がおどけて舌を出す。このひとのこういうやさしさが嬉しい。

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