さよならの続き
テーブルに視線を落として少し黙っていた渚が、まつエクでぱっちりした目を私に向ける。

「金井くんのしたこと、有梨は許せる?」
「許すもなにもないよ。陽太を怒らせて当然のことをしたんだから」
「じゃあこれからも今まで通り付き合っていけるの?」

間髪入れずに問われて、言葉に詰まった。
仲直りをしたつもりではあるけど、私たちの間に見えない溝ができたのは確かだと思う。
だけど、それを作ったきっかけは陽太ではなく私のほうだ。

「…陽太がこのままでいいなら、それでいいよ」
「…そう」

渚が短く呟き、躊躇うように視線を泳がせた後、再び私を真っ直ぐに見つめた。

「有梨が罪悪感にかられたり、後ろめたい気持ちになるのは、西嶋さんに対して気持ちが残ってるからじゃないの?」

気持ちが残っている…?

「…そんなこと、ない」

そんなことない。あるわけがない。
たまたま航平と関わる機会が続いただけで、もしこれが他の男性であったとしても、陽太に対する罪悪感は変わらない。

…いや、そもそも他の男性が相手なら『お礼にデートに付き合って』なんて言われても当然断っていただろう。
あのとき、航平の誘いだってきっぱり拒否することはできたはずだ。
そうすべきだったのに、私はそれをしなかった。
その時点でもう他の男性への認識とは違う。

動揺が渚に伝わってしまったのかもしれない。
さっきよりも躊躇のない口調で言う。

「ちゃんと自分の気持ちを見つめ直したほうがいいよ。そうじゃないと、このまま金井くんと付き合っててもまた不安と嫉妬にかられて同じことが起きるかもしれない」

見つめ直すも何も、私は陽太のことが…

即答すべきなのにできなかった。
もやもやした気持ちを振り切ろうと食べ始めたサンドイッチは、全く味がしなかった。



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