さよならの続き
仕事が終わって通用口を出る時、ちょうど航平に出くわした。

「あ、星野さん。お疲れ様」
「お疲れ様です」

穏やかに微笑む彼につられるように、私も笑顔を作る。
まだ18時半だ。いつもなら、航平はこの時間まだ仕事をしている。
…あ、でもそうだ。
確かスケジュールでは、19時半から医事営業部各区の偉い方々の飲み会が入っていた。
いったん自宅に帰ってから行くつもりなんだろう。

「送って行こうか。家近いし」
「いえ、寄りたいところもあるので」
「そっか」
「お疲れ様でした」
「…待って!」

腕を掴まれて振り返った。
何事かと思ったけど、彼の視線の先にあるものにすぐに気づいてしまった。
咄嗟に手で覆ったら、彼は察したらしい。

「…ああそっか。ケガかと思ったんだ。ごめん」

気まずそうに小さく微笑んで、ゆっくりと手を離す。

「幸せなんだな」

…違う。このキスマークは幸せの象徴なんかじゃない。
全部私が悪い。だけど…

『別にいいだろ。できても』

「星野さん?」

ハッとして我に返った。
深刻そうに眉を寄せる航平を見て、自分が今どんな顔をしているのか想像がついた。
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