さよならの続き
「すみません、お先に失礼しま――」
「やっぱり送る」

再び腕を掴まれ、その温かさに気が緩んで涙が出そうになる。

「いいんです。仕事で何かあったわけじゃないので」
「意地を張るなって前も言っただろ」
「意地とか、そんなんじゃないです」
「そんな顔をしてる君を放っておけない」

語調を強めた航平に、言葉を繋げなくなった。
航平に下心は全くない。ただ心配してくれているだけだ。
それがわかるから、そのやさしさを毅然として断れない自分がいる。

…駄目だよ。航平がどう思っているのかは関係ない。
キスマークは私への戒めだ。
それを盾にして、悲劇のヒロインぶってこの人に甘えるのは卑怯だ。

「…大丈夫ですから、離してください」

平静を装って、温度の低い声を放った。
少しの沈黙のあと、私の腕を掴む航平の力がゆっくりと緩み、振り払って逃げるように駆けた。

腕に残るやさしさの余韻はすぐに消えていく。
何が悲しいのかもわからないまま、雑踏に紛れて少し涙した。

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