さよならの続き
仕事が片付いたのは21時過ぎだ。
こんな時間まで残業するのは久しぶりだけど、MRはまだたくさん残っている。
これを見ると、いつも定時過ぎに帰る自分が申し訳なくなってしまう。
通用口を出て滅多に使わない折り畳み傘を開き、駅まで向かった。
会社からマンションの最寄り駅までは電車で20分だ。
雨の日の通勤電車はジメジメして気分が悪いけど、ラッシュの時間帯は過ぎていて車内もそこまで混んではいないのが救いだ。

最寄り駅に着き、大きな通りから道をいくつか折れる。
マンションまでの近道になる公園の中を通り抜けようとしたとき、後ろでピシャピシャと水が跳ねる音がした。

こんな時間に公園に人…?雨なのに?

不審に思って振り返ると、傘をさした誰かが明らかにこちらに向かって早足でやってくる。
身体が凍り付き、叫び声を出すこともできず、持っている傘を思いきり振った。
何かに当たった手ごたえがあり、勢いで傘を落とすと同時に反対方向へと走った。
息切れと自分の靴の音でさっきの人が追いかけてきているかどうかもわからない。
とにかく大通りを目指してひたすらに駆けた。

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