さよならの続き
スマホの地図アプリを見ながら駅から15分ほど歩き、過去に聞いた記憶を頼りに地図に載っていない岩場の細道を探した。
石ころだらけで道とは言い難い、足元が危ない通りを抜け、辿り着いた海の美しさに息をのんだ。

ブルーとグリーンが複雑に溶け合い、ゆらゆらと揺れる水面が白い光を浴びてきらめく。
少し先を見ればちゃんと鮮やかに色づいているのに、足下に寄せる波は不思議と透明で、砂の足跡を飲み込んで消し去っていく。
急に別の世界に入り込んだような気分だ。

ここは海水浴が禁止されている穴場スポットなのだと、彼が以前言っていた。
いつか一緒に行こうねと、約束していた場所。
一緒に来ることはもう叶わないけど、いつか来てみたいと思っていた。
たまたま昨夜の夢に出てきてそれを思い出し、思いつきでここに来たのだ。

地元の人なのか、カップルや家族連れが何組かいる。
砂浜にひとり腰を下ろし、潮風を感じながらしばらく海を見つめた。

馬鹿だな。
向き合わなきゃいけないことから逃げて、こんなところに来て。
来たところで何が変わるわけでもないのに。
何十分経ったかわからない。もしかしたらほんの数分だったのかもしれない。
時間の感覚は全くなく、もう帰ろう、と立ち上がって砂をはらった時。

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