おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜


「じゃあ、あとは新婚の二人でゆっくりと」

 夕方になり引っ越しが終わると、香月と千春は二人で取り残された。
 今生の別れでもなんでもないので、柳原夫婦との別離はあっさりしたものになった。歩いて五分の距離だ。その気になればいつでも会える。
 
「中に入るか」
「うん」

 見送りのために門の外に出ていた二人は柳原夫婦が見えなくなると、家の中へと戻った。

「引っ越しの手伝いで疲れただろ。何か飲む?」
「ありがと」

 降って湧いたような新婚生活は香月の淹れてくれた一杯のジャスミンティーから始まった。
 香月の家なんて小さい頃から何度も遊びに来ているし、同じメーカーの建売とあって間取りはほぼ同じ。勝手知ったる他人の家のはずなのになぜか今日は落ち着かない。

「夕飯、どうする?なんでもよければ適当に作るけど」
 
 香月は妻の手料理など最初から期待していなかった。千春に家事能力全般がないことは既に知られている。

「私も手伝う!」

 流石に初日から上げ膳据え膳では申し訳なくなり、千春は手伝いを買って出た。

 献立は千春も大好きなカルボナーラ。あと、トマトサラダ。
 手を洗い袖をまくると、調理工程を確認していく。

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