おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
6.募る想いが隠せない
自分の気持ちをはっきりと意識してから、香月と顔を合わせるだけで胸がきゅうっと疼くようになった。
玄関に並んだ大きな靴。香月が食べるガムの空きボトル。無造作に置かれたジャケット。
何の変哲もない日常が愛おしくてたまらない。
「おはよう、ちぃ」
「おはよう、香月くん」
休診日のこの日、千春が朝起きてリビングに行くと庭には既に洗濯物が青空の元ではためいており、ダイニングテーブルの上には立派な朝食が置いてあった。
(またやってしまった……)
またしても香月より先に起きられなかったと、千春は落胆した。家事は分担制にしようと提案したにも関わらず、香月は自分でやった方が早いからと、油断すると千春に分担された家事まで終わらせてしまうのだった。
「香月くんって本当に何でもできるよね……」
これは嫌味ではなく本音だ。
ずっと実家暮らしだったというのに、香月の家事スキルはベテラン主婦並みだ。
「一通り母さんから仕込まれたからな。これからの時代は男も家事をする時代だからって。ま、黄金塚の本劇場に弾丸ツアーへ行くには家事をやる人間がもう一人必要だからって覚えさせられたのもあるけど」
「ああ、なるほど……」
黄金塚の本拠地は関西にある。千春に負けず劣らずのヅカオタである珠江といえども、家事の出来ない男二人を残して一日家を空けてはまずいと考えたのだろう。
洋介にいちから家事を教えるよりも、香月に教えた方が楽であろうことは想像に難くない。