おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

 千春はテーブルにつくと香月が作った朝食を食べた。ふわふわのパンケーキに綺麗にカットされたりんごとグレープフルーツ。すりガラスの器にはベリーのソースがかかったヨーグルト。完璧すぎてもはや悔しさの欠片も湧かない。

(まずい……)

 ……間違っても朝食の話ではない。
 このまま香月に家事全般を任せてしまっていいのか。妻としての沽券に関わる。いくら香月が千春に甘いといえども、何もかもおんぶにだっこではひとりの人間としてまずかろう。

「天気もいいし今日は出掛けようか?」

 香月は淹れたてのコーヒーをテーブルの上に置くと、千春の正面に座り返事を待った。
 千春は口の中でもぐもぐしていたパンケーキをコーヒーで流しこんだ。
 
「天気がいいと出掛けなきゃいけないの?」
「ちぃ、その発言はさすがの俺もちょっと引く……」

 用事がない限りは家に引き篭もるインドア人間の千春にとって、天気が良いから外に出掛けるという常識は通用しない。

「本棚を新調したいんだよ。引っ越しの時に父さんの古い本棚を片付けたら、棚板が歪んでたんだ。ちぃの荷物も整理する棚が必要だろ?」
「うーん……。わかった」

 洋介が使っていた書斎は香月の書斎にする予定で、既に荷物の移動が始められていた。
 珠江のすすめ通り二人が暮らしやすいように片付けや家具の配置を変えていくと、次第に知らない家のようになっていく。
 模様替えは大変だけれど楽しくもあった。千春も香月には内緒で家のどこかに新しい祭壇を作ろうと企んでいた。

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