おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「支度できたか?」
「うん」
「よし、行くか」
外に出ると香月の言うように良い天気だった。もう十一月だというのに、日中はコートなしでも過ごせそうだ。
二人は少し遠出してベイエリアの大型インテリアショップまで出かけた。
外出は億劫だけれど、いざ出かけてみると心が躍る。組み立て式のインテリアの完成品が雑貨と一緒にトータルコーディネートされた空間を見ると、テンションが爆上がりする。
(うーん。これなんかなかなか……。あ、でも……)
千春の推しである星川恵流を飾るに相応しい棚はどれか。あっちにフラフラ、こっちをウロウロしながら検討に検討を重ねていく。
「ほら」
目移りしながら通路を歩いていた千春に香月から手が差し出された。
「手を握らなくても転ばないよ?今日はスニーカーを履いてるし」
「繋ぎたいから繋ぐだけ」
ふわりと右手が温かいもので包まれていく。ふにっと柔らかく、それでいて大きい香月の左手だ。
「こういうことしてると本当に新婚夫婦みたいだね」
「なに言ってんだよ。俺達はまごうことなき新婚夫婦だろ?」
「あ、そっか……。そう、だよね……」
茶化したつもりだったのに盛大に返り討ちにあった。
(ううっ……。なんか照れる!)
気持ちを封じ込めるのを辞めた途端、香月の台詞に敏感に反応するようになってしまった。本当に困る。