おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜


「わ、風が強いね!」

 インテリアショップを出ると、海が見えるデッキを二人で散歩する。晴れの日とあって千春達以外にも多くの人で賑わっていた。一際目立つのはカップルだ。
 売店でクレープを買い、ベンチに座って食べていると、必要な物品の買い出しにも関わらず甘酸っぱいデート気分が味わえた。

「ちょっと分けて!」
「こら!メインのアイスをごっそり取っていくなよ!」
「へへーん。油断を見せた方が負けなの!」
「じゃあ、俺も遠慮なく!」
「あ!」

 互いのクレープを奪い合うようにして食べ終わり、そろそろ帰ろうかと腰を上げたその時、目の前を走っていた五歳ぐらいの女の子がタイルの継ぎ目に足を引っ掛け転んでしまった。

「う……ふえーん!」

 女の子は目に涙を溜め、その場で激しく泣き始めた。
 
「大丈夫か?」
「私、絆創膏持ってるよ!」

 二人は泣いている女の子に駆け寄ると、起き上がるのを手伝い、擦り傷のできた膝小僧に絆創膏を貼ってあげた。
 ところが女の子は一向に泣き止む気配がない。

「転んだだけでどこが捻ったわけではなさそうだけどな……」

 香月は小児科医としての本領を発揮し、女の子の膝と足首の具合をみてやった。どちらも異常なし。

< 121 / 171 >

この作品をシェア

pagetop