おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「そういえばお父さんとお母さんは?一緒じゃないの?」
「は、はぐれちゃ……って……!」
それで泣き止まなかったのか。きっとデッキ中を走りまわって両親を探していたのだろう。知らない場所でひとりになり、心細くて泣いてしまう気持ちはわかる。
「そうかあ……。じゃあお姉ちゃん達が一緒に探してあげるね!」
千春は女の子と手を繋いだ。まずは迷子センターに行くべきだという香月の判断に従い、インテリアショップに戻るべくデッキを歩いていくと、ショップの方から誰かが走ってくる。
「ママ!パパ!」
女の子はパアッと目を輝かせ、千春の手を離れ駆け出していった。女の子は父親と思しき男性の脚にひしと抱きついた。
「本当にありがとうございました!」
優しそうな両親は千春と香月に何度も頭を下げた。千春はバイバイと手を振る女の子に手を振り返した。
「意外と早く見つかってよかったね」
「ああ……」
「ん?どうしたの?」
香月は女の子を挟み仲良く手を繋ぐ三人の後ろ姿を愛おしげに眺めていた。
「なんか……昔のちぃのことを思い出してた。ちぃがあの子ぐらいの年の頃にプロポーズされたなって……」
「プロポーズ!?」
「大人になったら香月くんと結婚するって言ってくれただろ?覚えてないのか?」
……覚えているに決まっている。
おままごとで夫婦を演じることが、あの頃の千春の一番の楽しみだった。