おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「うーん……。覚えてない……」
「薄情だな」
千春はあえて覚えていないフリをした。昔同様、香月にくっついて回り何も進歩していないのが恥ずかしかったからだ。
「それで、実際に結婚してみた感想は?」
「……知らないっ!」
千春は照れ隠しのようにそっぽを向いた。
「さ、そろそろ帰るか。夕飯は何が食べたい?」
当たり前のように夕飯のリクエストを聞かれる。これから同じ家に帰り、同じベッドで眠るのだ。
千春は香月の妻として、あの頃夢見た生活を送っている。
ここで欲張らないなんて嘘だろう。諦めるのはまだ早い。
愛されていないと拗ねるのではなく、愛されるための努力をしよう。
思い立ったが吉日。千春はにっこりと微笑み、香月にこう言った。
「香月くん!今日の夕食は私が作るね!」
「どうしたんだよ、急に……」
「いいから任せて!」
千春はどんとこいと胸を叩いた。男性の心を掴むにはまず胃袋を掴むこと、とよく聞く。
やる気だけは人一倍みなぎっていたが……結果は散々なものになってしまった。