おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「加賀谷さん、その手どうしたの?」
「昨日、火傷しちゃったんです……」
仙堂が指さした千春の右の手の甲には、特大サイズの絆創膏が貼られていた。絆創膏を貼ったのはもちろん香月だ。
「よく見たら指も……?」
「こっちは包丁です……」
左手の中指と人差し指にも、おそろいの絆創膏が巻き付けられている。キーボードが打ちにくいがヘマをしたのは自分なので文句も言えない。
「怪我までして香月先生のために頑張ってるんだねえ……」
仙堂は感心したように千春の健闘を褒め称えた。
香月のためだと面と向かって言われるとなんだか恥ずかしかった。
今まで頑張らなかった分をツケが回ってきた結果であり、褒められるようなことはなにもしていないからだ。こんなことなら嫁入り前に家事を教わっておけばよかったと、悔やんでも後の祭りだ。
昨夜の夕食のことを振り返ると、げんなりした気分になる。
ハンバーグを作るつもりが、ひき肉は消し炭のように真っ黒になり、とても食べられたものではなかった。追い討ちをかけるようにご飯を炊き忘れ、炊飯器の中は綺麗に空っぽ。
千春は香月に慰められながら、買い置きしてあったカップラーメンを啜ったのだった。
「加賀谷さんの手料理が食べられる香月先生が羨ましいよ、本当に」
「ははは……」
香月の手料理の方が実は何倍も美味しいなんて言えるような雰囲気ではなかった。乾いた笑いが湧き上がる。
(次こそは失敗するもんか……!)
リベンジを誓った千春は暇があると料理本を読み漁り、時間を作っては珠江と母にせっせと家事を習いに行った。
猛特訓の甲斐があり、千春の料理の腕はみるみる上達し、一ヶ月後には見違えるほどになった。