おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
……昔からそうだ。
香月はいつも大事なことをなにも話してくれない。
医大を受験するということも、小児科を専攻することも、全て決まった後から聞かされた。
もし千春のために大学病院を辞めるつもりだと知っていたら絶対に反対した。
(負い目を感じないように黙っていたの?)
今まで感じていた幸せも楽しい思い出も、香月の輝かしい未来を犠牲にして成り立っていたのだろうか。
(香月くんにとって、私はただのお荷物でしかないのかな?)
なんだかすべてが虚しくなってくる。
(疲れた……)
今朝方は香月よりも早起きして朝食を作っていた千春に睡魔が襲いかかる。
よりにもよってこの日に放送されていたのは純文学の名作、『秋影の鐘』を舞台化したものだった。
コガネヅカならなんでも好きだと思われがちだが、千春にだって苦手なジャンルがある。淡々とした長台詞の多い演目に千春はとうとう瞼を下ろし、そのままソファで寝入ってしまった。