おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「ちぃ、起きろ。こんなところで寝てたら風邪引くぞ」
「か、づきくん……?おかえり……」
打ち合わせから帰宅した香月に一度起こされたが、千春は眠気に逆らえず再び目を瞑り始めた。
「ああ、もう。こんなに冷えて……。ったく、しょうがないな……」
香月は寝こける千春を抱き上げると、階段を上っていった。香月の胸に頭を預けると、微かにアルコールの匂いがした。消毒用のアルコールとは違う芳しい甘い香りにすんすんと鼻を鳴らす。
「よっこいせ」
ベッドに下ろす時の掛け声がおじさんみたいでおかしい。千春はギャップに耐えきれずグフグフと笑い出してしまった。
「起きてるなら自分で歩けよ」
「ふふっ。バレてしまったか……」
狸寝入りがバレた千春は香月の首に腕を回すと、ぐいと己に引き寄せた。
「ちぃ?」
体勢を崩した香月は千春を押し潰さぬようにベッドに両手と膝をついた。
「ねえ、今すぐ抱いて?」
「どうした?」
「理由なんてどうでもいいでしょ?私達、夫婦なんだもん。佐久間先生だって性交は問題ないって言ってたし」
「ちぃ、もしかして酔ってる?」
「酔ってるのは私じゃなくて香月くんでしょう?」
酒の勢いに任せられないのが、深酒を禁じられているこの身体の悲しいところだ。
千春はさらに香月にぎゅうっとしがみついた。