おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
喉笛が舌でなぞられ、時折きつく吸いつかれた。いつも穏やかな瞳に熱いものが迸っていて知らない男の人みたいだ。怖いのに、嬉しい。理性を飛ばすほど求められていると思うと、頭がどうかなりそうだった。
セーターとキャミソールを一緒くたに脱がされ、唇を塞がれたままホックが外されると肩からストラップがずり落ちた。
露わになった胸元が月夜に照らされると、香月の動きが冷や水を浴びせられたようにピタリととまった。
「どう、したの……?」
「ごめん。酔っていて魔が差した。本当にごめん」
香月は千春の身体に布団をかけると、慌ただしくその場から立ち去っていった。
ひとりベッドに残された千春に宵闇だけが優しかった。
「噓つき……」
お酒に呑まれたと嘘をつく香月が憎らしかった。
行為が途中でやめられた理由を千春は正確に理解していた。千春の胸に未だに残る手術痕を見たからに違いない。千春が『特別』な証。
「こんな思いをするくらいなら、何もされないほうがマシだった……!」
千春はベッドにうずくまりすすり泣いた。
香月に女性として見てもらえないのが辛かった。辛すぎて今すぐ消えてしまいたかった。
結局その夜、香月はベッドに戻ってくることはなかった。