おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「いやああああああああああああああああ!」
千春は早朝からとんでもない悲鳴を上げた。
「ちぃ!どうした!?」
「か、香月くん!」
この世のものとは思えぬ叫び声に香月が洗面所から飛び出してくる。
千春は昨夜のことを一旦意識の端に置き、星川恵流退団のニュースを香月に教え、ガクンとその場に崩れ落ちた。
「もう生きていけない……!」
何のために生きればいいのかわからない。
これまで星川恵流のグッズを買い、公演を見るためだけに働いてきたというのに。
これからどうやって息をすればいいのだろうか。
「ちぃ、冗談でも生きていけないなんて言うなよ」
「今はっ!正論なんてっ!聞きたくないの!」
「退団するだけだろ?大袈裟じゃないか?」
「私にとって星川恵流様は『特別』なの……」
夜空に輝く一等星なくしてどうやって人生という長い旅路を歩いて行けるのだろう。他に代わりなんていない。千春にとって星川恵流は唯一無二の存在だった。
「俺だってちぃを『特別』大事に思っているさ」
なぜ、香月が星川恵流と張り合うのだろうか。
千春は香月を嘲るようにハハッと鼻で笑ってしまった。