おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「香月くんにとって『特別』ってなに?推しのグッズを盾にして結婚するのが『特別』ってこと?」
「それは……」
香月は言葉を詰まらせた。違うと否定すらしてもらえず、ジワリと涙が滲んでいく。
何もかもどうでもよくなってくる。いくら努力しようと、香月にとって千春は『特別』以外のものにはなり得ないのだ。
いい加減不毛な関係は終わらせるべきだ。
「いいよ、全部分かってるから……。同情心と義務感で結婚してもらってもひとつも嬉しくない!」
自暴自棄になった千春は禁断の言葉を口にした。
「……私達、離婚しよう」
「ちぃ!」
千春は逃げ帰るようにして、徒歩三十秒の実家のドアをくぐった。
勝手に里帰りし自分の部屋に入ると、途端に我慢していたものが溢れ出す。
香月に拒絶されたショックと星川恵流退団のニュースで、千春は子供に戻ったようにワーワーと泣いた。