おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
7.推しへの愛は永久に不滅です!


「ねえ、千春。いつまでここに居るつもりなの?」

 一向に香月の家に戻ろうとしない娘が心配になってきたのか、母はとうとう痺れを切らし千春に直接尋ねてきた。
 
「このままずっと家にいるって言ったら……怒る?」
「ま、気が済むまでいなさいよ。夫婦なんて多かれ少なかれ喧嘩をするものだしね。拗れる前に早いとこ仲直りしなさいよ?」

 母は年長者らしい助言を残すと、千春の滞在を快く許可してくれた。

(ただの喧嘩で済めばいいんだけど……)

 千春の結婚を喜んでくれた両親に、離婚することになるかもとはとても言えなかった。
 千春はため息をつくと、のそのそと朝食の残りを食べ始めた。
 香月の家を飛び出した千春は、一度も帰ることなく自分の部屋で寝起きを続けていた。香月からは何度かスマホにメッセージが届いていたが、怖くてまだ読めていない。
 離婚を切り出してから千春は自分がどうすべきかずっと考えていた。区役所に行って離婚届を取ってきたものの、まだ一文字も記入できていなかった。

(香月くんは離婚を突きつけられてどう思ったんだろう……)

 香月のことだから「ちぃが離婚したいなら離婚しよう」と言って、あっさり離婚を承諾してくれそうだ。

(ありえる……)

 結婚の理由も適当なら、離婚の理由も適当なところが千春達らしい。二度目の結婚の機会に恵まれたら教訓にしたい。
 ……推しを盾にとられても、結婚はしてはならない。

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