おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
エピローグ
「ちぃ!座ってろって!」
「えー?これくらい平気だよ」
キッチンで皿を洗っていた千春は思わず不満を訴えた。
特段おかしなことをしていたわけでもないのに、香月に目くじら立てられるいわれはない。
「いいから!今が大事な時期なんだ。安静にしてろよ。ゴルステ見てていいから!」
流れるように香月から小言が飛んできて、千春はキッチンから追い出されてしまった。
今が大事な時期という台詞を聞くのは何度目だろう。毎日聞いている気がする。
「はいはい。わかりましたよー。まったく……パパは昔から心配性ですねー?」
千春はソファに座るとお腹の中にいる子どもに告げ口するように語りかけた。
香月と前代未聞のおとなり契約結婚をしてから、二年の月日が経過していた。
千春は今、妊娠七ヶ月。
安定期にも入り、徐々に出産準備を始めているところだ。
悪阻こそ酷かったものの、身体の方はこれといった異変が起こることもなく、平和な妊婦ライフを送っている。
仕事も休みをもらい、出産の日を待っている。
持病のある千春は聖蘭医科大の産婦人科に通っているのだが、心配症の香月は毎回妊婦健診に付き添ってくれた。